親亡き後 問題1

身体的、精神的、知的等何かしらの障害を持っている子を親が介護している場合には、親が先に亡くなった後において、どのようにしてその子が十分な介護を継続して受け何不自由なく平穏無事な人生を送れるようにサポートできるかが非常に大きな問題です。

障害のある子を持つ親としては、それこそが最大の不安であり感心事であると言え、それは社会福祉の面からも非常に大きな課題です。これが、いわゆる「親亡き後問題」といわれているものです。言葉上は「親亡き後」となっていますが、問題の根本は、親が死亡した後ではなく、親が生きて元気なうちにどのように亡き後対策に備えるかということが重要となります。

子が障害を持つにいたった経緯は様々で、先天的なものもあれば、病気はもちろん、交通事故による重度後遺症障害者(高次脳機能障害等)のケースもあります。

また、子の障害の程度も、軽度なものから重度なものまで様々です。
したがって、「親が亡くなり障害をもつ子が遺されたケース」という大きな括りで論じてしまうことに限界や危険性もありますが、ここでは、それを踏まえた上で、多くの親亡き後問題に共通する問題点と代表的な対策等について考えたいと思います。

【事例1】親亡き後に障がいのある一人っ子の生活を保障したいケース

本人X(78)には、妻Y(72)との間に障がいのある息子A(40)が一人います。Xは、自分と妻Yが亡くなった後の一人息子Aの生活保障が心配です。また、息子Aは障がいにより、遺言書を書けるだけの理解力はありません。
Xは、X・妻Y・息子Aがすべて亡くなった後に残った資産があれば、それを息子Aがお世話になった障がい者施設に寄付したり、お世話になった親戚に贈与したいと考えています。

≪解決策≫
Xは、今のうちから息子Aの後見人として、信頼できる司法書士Wを探し、予め法定後見人選任申立てをします。
次に、Xは、信頼できる親戚のZとの間で契約により信託を設定します。
その内容は、当初は委託者=受益者とするが、Xの死後、第二次受益者を妻Yにし、受託者Zが妻Yの生活を支えます。
さらに、妻Yの死後は、第三次受益者を息子Aにして、息子Aの生存中の生活・療養に必要な資金は、受託者Zから息子Aの後見人Wに必要に応じて給付する形をとります。

また、息子Aの死亡により信託が終了するように定め、信託の残余財産の帰属先を施設や親戚Zに指定します。
こうすることで、妻Y及び息子Aが生存中に使いきれず残った財産は、最終的に国庫に没収されることなく、Xが希望するところへ譲ることができます。

≪ポイント≫
X及び妻Yが元気なうちから法定後見制度を利用することで、高齢であるXと妻Yの負担を極力軽減させるとともに、X・妻Yの死後に自分の知らない人間が大切な息子の後見人になる漠然とした不安を解消することができます。
また、X及び妻Yは、後見人Wに対して、息子Aの生い立ちや趣向、どのような方針で身上監護・財産管理をしてほしいか等、様々な情報・希望を直接伝えることができますし、司法書士Wが後見人として業務をしっかりこなしている姿をみて、親亡き後のことについて安心することもできます。
息子Aに遺言能力がないため、通常の相続をしてしまうと、両親XYの資産がすべて息子Aに集約されたのち、息子Aの死後は、相続人不存在として残った財産はすべて国庫に帰属してしまいます。
このようなケースで、“後継ぎ遺贈型受益者連続信託”の仕組みを使うことで、民法上の単なる遺言では実現できないXの希望を反映させた財産承継の道筋を作ることができます。
財産管理を担う親戚Zに対しては、Xが元気なうちはX自身が目を光らせ、X亡き後の妻Yが元気なうちは妻Y自らが目を光らせ、その資産状況の報告や必要に応じた財産給付を求めることができます。
X・妻Y亡き後は、息子Aに代わり後見人Wが受託者Zに対し資産状況の報告や必要に応じた財産給付を求めることになり、受託者Zが信託財産を勝手に消費しないように監督しますので安心です。
なお、親戚である受託者Zには、財産管理のお礼として月額等で信託報酬を信託財産から支払うことも可能です。

次の記事

成年後見制度